佐村河内守ゴーストライター事件の隠された本質(2)
佐村河内守ゴーストライター事件についてマスコミが報じていない重大な本質について書きました。佐村河内守ゴーストライター事件の報道については「全聾の作曲家 佐村河内守」をご覧ください。
テレビやマスコミの言う事が正しい、難聴・聴覚障害なんか関心ないよ、と思っている方には不快な表現があるので、この先はけっして読まないでください。
【前回】佐村河内守ゴーストライター事件の隠された本質(1)
(お願い)まだ執筆中ですので、表現など気づいたことがあれば、その都度修正していきますので、引用はこのページへのリンクのみにしてください。
頑張って努力することが誤り?
お読みいただき、ありがとうございます。
前回 佐村河内守ゴーストライター事件の隠された本質(1)の最後で次のように書きました。
わたしたちは気付いていますか?
わたしたち日本人が頑張って、努力して、聴覚障害など身体障害を克服するような「感動的な物語」を過度に持ち上げたり、絶賛してきた結果として、歪んだ面がこの騒動で出ているのです。
方向を誤った自己責任や過度な頑張りと努力を重んじる風潮がこうした問題生み出しているんですよ。
問題の本質を伝えろ!
これは誤解のないように書くと、難聴・聴覚障害者が健聴者と人間関係、信頼関係を確立できるようにコミュニケーションを学び、工夫するための頑張りと努力は必要です。
でも、元からできない事なのに、「頑張りと努力次第で健聴者並にできるようになるはず」と刷り込まれたらどうなるでしょう?
私は幼い頃から、その過程と結果を全て経験してきましたが、その過程の成功と失敗、そして辛さもよくわかります。
説明しましょう。
聴覚障害は1925年を境目にから、長年にわたって、「健聴者に追いつけ、健聴者に近づけ」と当事者が頑張って努力して、克服して、健常者並にできるようになるべきとされてきました。
マスコミでも悪意はなかったでしょうが、「聴覚障害者が頑張って努力して克服した」といった話の類いを度々「いい話」として、もてはやすかのような報道をしてきました。
健聴者に追いつけば、身体障害者手帳を返す聴覚障害者は出てもおかしくありません。
その結果どうなったでしょうか?
障害を克服したら健常者と同じようにできるはず?
就職面接で「あなたは電話ができますか?」と聞く企業があります。
私も社会に出てから経験しましたが、これを聞かれる都度、本当に辛かった。
コミュニケーションが健常者並に100%できることを採用の前提としているところもありました。職探しで、ハローワーク経由で申し込んでも「電話ができないのはちょっと・・・」と断られることの方が多くありました。
障害者を対象とした面接会ででも質問され、前は聞かれる都度、凹みました。
私がその質問はおかしいと指摘すると「頑張って訓練すればできるはず。」と言うので「それは誰が言っているのですか?」と聞くと、
「マスコミなどでそういっている」
といわれました。
明らかにマスコミの「身体障害を克服したような」美談報道の垂れ流しの結果です。
質問をしてくる担当者と上司は自分の評価に繋がりますから、悪意はありませんが、同時に主体性の無さと想像力の欠如に気付いていません。
2級の聴覚障害者で健常者並に電話が100%できる者は日本にどれだけいるでしょうか?
ゼロ人です。
自分の足を縛って10キロの重りをもって100メートルを10秒以内で走れと言うようなものです。できたら「奇跡」です。
面接で足が不自由な、車いすの人に立って歩けるようになれましたかと「奇跡」を聞く人はいません。当たり前です。
そんな事をしたら、人事担当者、経営者たち役員の認識が非常識な会社ということになります。会社の評価は下がり、上場企業なら株価が下がったり、マスコミが叩く材料あるいは不買運動を起こされたりするでしょう。
私の指摘で気づいた面接担当者もいましたから、ほとんどの聴覚障害者はこの質問を言われても、面接担当者の気分を害したらいけないと、黙っている人の方が多いのです。
補聴器を使って、訓練して、できるようになったと言われる私でさえも、日常会話は口の形を見て、前後の言葉で判断していますが、それでも聞き間違いの方が多いのです。会議は要約筆記がなければ、本当にわからず、退屈なものになります。
電話では聞き間違いによるトラブルを避けるため、ファクスやメールを主に使うようにしています。
電話ができなくて困る仕事?
仕事で電話ができないからといって支障が出るのはどんなことがあるでしょう?
無線で臨機応変な対応が求められるパイロットや消防士などの職業は現場に出ることは無理でしょう。しかし、一般的にそこまでの対応が求められることはありません。
営業できない?工夫すればできるのです。
私は新規開拓営業で、ファクスやメールを使い、飛び込み営業で110店舗開拓した経験があります。現在なら、電話リレーサービスを使えば、多くできるでしょう。
必要なのは「勇気」です。
そうなると頻繁に電話を使う、コールセンター業務や電話でないとまずいような秘密の仕事くらいで、あとは「面倒だ」「仕事の合理化」の合唱くらいでしょうか。
もう今だから書いてもいいでしょう。
ある大手電機グループ会社は面接で私に「電話ができますか?」と聞いてきました。当時はまだ業績も悪くはありませんでしたが、現在、事業再編成の嵐になっていることで知られています。
他にも面接で「電話ができますか?」と聞いてきたところは数年後に不祥事が発覚したり、業績が下がり、業績悪化に苦しんでいます。
はたして偶然でしょうか?不況だからでしょうか?
いいえ、偶然ではありません。
今となっては必然であることがよくわかるのです。
身体障害者は社会の鏡?
「聴覚障害者はコミュニケーションが健常者並になるよう頑張って努力すべきだ」と考えて「あなたは電話ができますか?」と聞いてきた企業は後から振り返ると、次の特徴を見事に暗示していました。
「私たちはコミュニケーションが苦手です」
「伝達間違いが多い」
「ことなかれ主義の人間が多い」
「仕事の工夫ができない」
「安定を望みます」
「失敗したくありません」
「人と関わるのが面倒」
「安くしろ(無料なら最高)」
聴覚障害・難聴者に絞って書いていますが、聴覚障害・難聴者を「面接した」企業の鏡として考えると、見事に企業の現状を映し出していました。
同時に典型的な聴覚障害・難聴者当事者にはられている「レッテル」です。
不愉快になった人もいるでしょうが、ただ怒りをぶつけるのではなく、この現実があることを認めてみましょう。
「市場原理」を万能薬であるかのように錯覚して、ことなかれ主義、失敗を怖れる、合理化第一の「安くしろ」を掲げる会社を支えようと従業員は「喜んで働こう」と思うでしょうか?
従業員は保身に走り、リストラに合わないよう、人を育てない、自分ができる仕事を確保して、スキルを磨かず、それでいて、給料をもらうことだけを考えるようになります。
自分たちが法律に定められた雇用率を満たすべく、優秀な人材だけを選んでいるつもりが、実は自分たちの鏡であり、実は自分たちを社会から切り離しているといえます。
聴覚障害者に限らず、身体障害者の雇用や関わり方が、実は自分達の仕事と社会に姿勢を問われる「鏡」の機会であることに気付きます。
伝言ゲームがうまくいくグループとそうでないグループの違いはどこにあるかを考えると気付きます。
企業でも同じで、伝言がうまく伝わらない人をフォローしたり、工夫して改善していく仕組みができています。
ただ、当時者にも努力と工夫は必要です。
わたしたち当時者は「できること」をできるようにすることも大切です。
何をでしょうか?
次回 佐村河内守ゴーストライター事件の隠された本質(3)へ続きます。
【記事一覧】
佐村河内守ゴーストライター事件の隠された本質(1)
佐村河内守ゴーストライター事件の隠された本質(2)
佐村河内守ゴーストライター事件の隠された本質(3)
佐村河内守ゴーストライター事件の隠された本質(4)
【参考記事】
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