2010年頃に書いた内容で、現在のわたしでいえば状況が変わってきています。コミュニケーション能力を磨いていった事が大きかったと思います。
難聴者が電話が苦手な理由
面接で聞かれたこと
面接で「電話ができますか?」と聞かれることについて書きましょう。検索でも「電話ができますか?」で来られる方も多いです。
実は1990年代の採用面接でもこの質問があり、「あなたは電話ができますか?」といった質問を受けることがありました。
実は1990年代より前からあったそうです。
2009年にハローワークで開催された、身体障害者を対象とした面接会での出来事です。ハローワークの担当者から参加してみませんか?とさそわれて、現在はどうなっているのか、現状調査を兼ねて入ってみました。
大手企業の面接ブースで話をしました。すると出てきました。
「あなたは電話ができますか?」
まだしていたのか・・・。
20年以上前の質問が未だに続いていたことに驚きました。
相手を変えることはできませんが、自分の意識を変えることはできます。
なぜこんな質問が出るのでしょうか?
この「電話ができますか」を聞かれると凹む当事者は多くいますが、私はやんわりと切り返しました。
「お言葉ですが、あなたは車椅子の人に立って走れますかとききますか?」
と話をしながら
『この人が聞いた話は1980年代のままかもしれない』
「健聴者並に電話ができたら、それはもう身体障害者ではないんです」
お断りしておくと、面接担当者は悪意で「電話ができますか?」と聞いているわけではありません。おかしな人を入れてトラブルになったら、自分の責任問題であり、クビになるかもしれないのですから。失敗しないようにこの質問をしてくるのは当然のことです。
それは理解できます。
ただ、問題なのは大正時代から今日まで「努力して健聴者に合わせるべき」「訓練したら健常者並になれるはず」と誤った認識がまだあるという事です。
1910年代には「聴覚障害女児が訓練によって会話ができるようになった」のラジオ放送が話題になりました。
1980年代には「補聴器をつけた聴覚障害児が訓練によって電話ができるようになった」といった発表の報道があったと聞きます。
こうした発表は字数や時間の都合もあるので、たいがいは背景については触れることができません。
「聴覚障害女児が訓練によって会話ができるようになった」のラジオ放送もこの女児が成人してから、電話が問題なくできたということから、現在のレベルでいうなら、中度の難聴もしくは伝音性の難聴ではなかったかということ、残存聴力が会話ができるくらいに残っていたのではないかとの指摘があります。
後で説明しますが、1980年代の「補聴器をつけた聴覚障害児が訓練によって電話ができるようになった」は私がその事例の1人です。
あとから調べていってわかったのですが、私の話に「きこえる人並みになった」と尾ひれがついて一人歩きしていいました。
難聴者・聴覚障害団体では「難聴・聴覚障害にご理解を!」と大きく訴えますが、こうした事に関わる背景をわかるように解説した話をきいた事がありません。
とくに難聴者協会のホームページには私がこのWebサイトで書いているような説明は1つも乗っていません。
これでは一般の方々が理解する以前の問題です。
せめて、なぜできないのかくらいは調べられるようにして欲しいものです。
せめて 補聴器メーカーの一部では聞こえについて解説してくれていますが、専門的なもので難しいのが現実かもしれませんね。
訓練しても、100%できるようになるわけではない
聴覚障害者は音の周波数事の物理的な特性と、認識できる声が個人によって変わるため、補聴器をつけたり、訓練を重ねても、電話は100%健聴者と同じように聞き取ることはできません。
最近は携帯電話のため、音質が黒電話より悪い事も珍しくありません。さらに健聴者でも聞き間違いはあります。
障害者手帳のない軽中度の難聴者には問題なく電話が使える人も多いことから、明らかに混同されている面もあります。
私も訓練によって電話ができるようになった1人ですが、100%健聴者と同じようにできるようになったわけではありません。
聞き間違いの方が多いのです。
聞き間違いがあっては大変なので、基本的にメールやFAXもしくは直接会って話をする事を前提にしています。
近年は内閣府や官公庁ともメールでのやりとりができるようになっています。消防署や警察でも事前登録が必要な所もありますが、メール通報も受付けはじめています。
電話代理サービスもありますが、現在はこちらからかける電話が前提であり、かかってくる電話に対応できないのが課題です。費用と誰でも利用できる公共施設と同様のサービスにしていくことが課題になっています。
そもそも何か電話でしかできないようなことでもあるのでしょうか。
あなたの会社が電話でのやりとりを重視しているとしたら、やましいことをしているか、時代遅れになっているか、将来性が・・・・。(汗)
すみません、毒がすぎましたね。
電話だけで伝わると考えてしまうのはあまり進められません。
「復奏」という言葉をご存じでしょうか。
直に顔を見て報告をする。
わたしたち日本人は古来から顔を見て話をする事を大切にしてきた民族です。
進んでいる会社は既に変わっている
以前、私が事業で営業開拓をしていた時、大手商社と取引でやりとりをした事がありますが、担当の方に説明すると、メールとFAXで対応してくれました。
担当の方とお会いした時、話してくれましたが、お互いに意思のすれ違いがあるといけないので、電子メールやFAXを使うようにして、基本的に文面に残る形と対面を重視しているそうです。そして、自分の親友が身体障害者になったと話してくれました。
21世紀の現在、新幹線が時速300キロ以上で走り、インターネットも登場して、スカイプとチャットで世界中の人と話できて、携帯電話のメールやテレビ電話でも会話する人もいます。
1990年代ならいざ知らず、通信システムが高度に発展した21世紀の現在では「業務連絡は電話ができなければならない」とする限定条件はコールセンター業務でない限り、旧い考え方でしょう。
過去に会社に入った難聴者がコミュニケーションで失敗した事があった話を聞いたことがあります。その記憶から現場で「難聴者は扱いが難しいから採用はやめて欲しい」といった話も未だにあるとききます。
もったいない話です。
気付いて欲しいのは私たち当事者が「難聴者は扱いが難しい」といった考え方をする人に面した時、誰かがあなたに変わって、劇的に改善してくれるわけではありません。
面接で人事担当者が健聴者と同様にコミュニケーションができることにこだわり、「あなたは電話ができますか?」と「無神経な質問」をしてきて、それに凹んだり、腹を立てて、後から怒りを自分や他人にぶつける事は簡単なパターンです。
それはお互いに無知さを暴露して、熱い石をぶつけた挙げ句、どちらも「私は無能です」と言うようなものだ思います。
そこから私たちが気付き発展する要素が多くあるのにもったいない話です。
それが今まで繰り返されてきたのが現状です。
電話ができないのはなぜか
関連団体は一般の人にわかるような説明ができていない
補聴器を使っている聴覚障害者が「電話ができない」のは何故でしょう?
この疑問に対して難聴者当事者も、難聴者協会や聾唖協会など関連団体において、これまで一般にわかるような説明をしてきたとはいえません。
こうした話は単に机上で学んだだけの話はよく見かけますが、実際にはわからない事の方が多いのが現状です。
私が研究してきた事から「電話ができない」仕組みをわかるように説明していきましょう。
わかりやすく伝える事を第一にしているので、専門的な知識を持つ人から、見れば違う所があるのはご承知ください。
聴覚の可聴範囲について
可聴範囲(ダイナミックレンジ)という言葉は聴いたことがあると思います。私たちが見かけるスピーカーやCDプレイヤーなどの性能表にも「ダイナミックレンジ」の項目があります。
机の広さ
ダイナミックレンジは一言で言えば
「机の広さ」
です。
あなたが使う机を想像してください。
机には書類や本などを置いてそこで作業をすると考えてください。
机が広いほど、多くの本や書類を置くことができます。しかし、机が狭くなると多くの本や書類を置くことができません。
これを視覚、目でたとえてみましょう。
私たちは目をひらくと、視野に入る机の上にある物を見て認識できます。これが目をだんだんと細く閉じていくと光が入らなくなり、机の上にある物が見えても、何なのか、認識しにくくなります。
目と違い、耳は閉じることができませんが、人間の聴覚にもこれと同じように「可聴範囲」として音を認識するための「広さ」があります。この「広さ」が狭ばまるとと、音がどんな音なのか、認識が難しくなります。
補聴器は音を大きくして、音域の周波数を聞こえる範囲に調整します。個人の聞こえ方にも左右されますが、この可聴範囲が狭いと、音を大きくしても認識できない音が必ず出てきます。
可聴範囲レベルと電話の音域レベル
図を見ましょう。
音域の横軸が音域レベルで、縦軸が音量です。
大まかに聴力を4つの区分にわけてみました。
音域が125Hz(ヘルツ)~8000Hzの範囲で、電話の音域は200Hz~3400Hzの範囲になります。
電話の音量はだいたい40~60dB(デシベル)の範囲で、「電話における会話の平均的な音量」と重なるところです。
人間の声は多くが300Hz~3300Hzの範囲と言われていますので、この範囲内が聞こえる人なら電話はできます。
縦軸の音量レベルが0から下の方向へ10,20、100dBと欠けている領域が増えていくにつれて「広さ」としての可聴範囲がだんだんと小さくなっていきます。
- 難聴のレベルがL1の場合
L2,3,4の可聴範囲が含まれる、全部聞こえる…健聴者 - 難聴のレベルがL2の場合
L3,4の可聴範囲が含まれる…軽中度の難聴者 - 難聴のレベルがL3の場合
L4の可聴範囲が含まれる…高度の難聴者 - 難聴のレベルがL4の場合
L4の可聴範囲しかない…重度の難聴者
個人の聴力にもよりますが、L2までなら聞こえることがあります。
しかし、L3の身体障害者として認定される辺りから、小さくなり、L4になるとの可聴範囲が他のレベルと比べて極端に小さくなってしまいます。
L3,4は「聞こえる範囲が狭い」ので音量を大きくしても、聞こえる範囲に入りきらないわけですから、音が聞こえても低音域と高音域とでは異なる特性から、聞き間違いが増えます。
最新型の補聴器を使っても聞こえない音が出てくるんですね。
いわゆる「音が欠ける」状態です。
いうなれば、わたしたちが今使っているパソコンのキーボードのキーが使えなくなくなるようなものです。
↓こんな感じです。
私の聞こえの場合で書くと
「パンが焼けたよ」
が
「・ンがあ・たよ」
カ行やサ行などの子音が無音になったり、ヤ行がア行になって聞こえたりします。
この状態で会話が成り立つとしたら、とてもつなくすごい事だと思いませんか?
私は100%はできない事を自覚しています。
私はこのため、口の形や話の前後の流れで判断して、わからない時はFAXなどで書いてもらうよう、お願いしています。
同時に、電話が100%健聴者並にできたら 聴覚障害者ではないという話の根拠がここにあります。
「自分の両足を縛って、10キロの鉄アレイをつけて100メートルを10秒以内で努力して走れるようにしてください。」
と言われて、努力してもできる人はいません。
また、10秒以内で走るのはオリンピック選手と同じレベルで、世界に何人いるでしょうか?
「10キロの鉄アレイをつけて100メートルを10秒以内で走れますか?」と聞いているようなものです。
やってみたとしても、とてもつないしんどさです。
確かに努力や工夫は大切です。
でも、その方向と目的を「健聴者並になること」だけにおいてしまう事が大きな間違いであり、明らかに本末転倒になってしまいます。
ましてや、頑張ってもできるようなものではありません。
そういった事を丁寧に話をしていきたいものです。