石けん水の効用などを考証してみよう
前回の手指消毒アルコールの代替をつくろうの続きです。

前川修寛
「手指消毒アルコールの代替をつくろう」で説明したハッカ油石けん水。消毒にも使える根拠となる話を一緒に学んでいきましょう。新たな事が判明次第、随時追加します。
追加分
令和2年4月24日 北里研究所の検証試験を追記
手からの感染連鎖を阻止する
人の「手」を介した「接触感染」も多い
令和2年、日本に襲来した武漢肺炎コロナウィルス(COVID-19)の感染はくしゃみやせきによる「飛沫感染」に加えて、人の手を介した「接触感染」が多いことがわかってきています。
「接触感染」とはウィルスが付着したものに触った手でドアノブやエレベーターのボタンといった手が触れるものに触れた後、無意識に顔に触れてしまう事で感染を招くことをいいます。
令和2年2月に横浜港に寄港した客船ダイヤモンドプリンセス号には乗員・乗客3711人が乗船していました。この現場で検疫と隔離の対応に当たった厚生労働省政務官で医師でもある自見はなこ参議院議員によれば、「確実に接触感染が起こっていると感じた」との話でした。
乗客の方で最後まで陰性だった乗客の話ですが、手をこまめに洗う、顔に手をふれない、船のエレベーターに乗る時もボタンを中指を曲げた第2関節で押す事を別の婦人に教えられて守るようにしたなど、用心深く行動していたことをSNS上で伝えていました。

前川修寛
石けんが消毒にも使える根拠を一緒に学びましょう。考証1 石けん水でどれだけ細菌が減るか
BBCで紹介された石けんでスマートフォンの消毒方法の動画で使われた石けん水の石けん濃度は1%でした。石けん水でぬらしたマイクロファイバーでスマホ表面に塗布した後、きれいなマイクロファイバー布で拭き取る方法でどれだけ細菌が減るかの検証でした。
BBCニュース - スマホを「安全に、効果的に」清潔にする方法、微生物学者が解説
BBCニュース - スマホを「安全に、効果的に」清潔にする方法、微生物学者が解説 https://t.co/6mY1fitCDg pic.twitter.com/ATdXp7BJoI
— BBC News Japan (@bbcnewsjapan) March 13, 2020
https://twitter.com/bbcnewsjapan/status/1238402359941713920
動画では微生物の測定装置を使い、スマートフォンの微生物を測定した結果は洗浄前は400~59でしたが、石けん水で洗浄した後はいずれも外科手術で必要な数値50未満を大きく下回る数値になっていました。

前川修寛
スマートフォンの表面のクリーニングには石けん水の方がいいでしょう。キーボードやマウスの掃除も同じです。アルコールだとコーディングが剥がれる事があります。考証2 手洗いでウィルスがどれだけ減るか
手洗いでウィルスがどれだけ残るかを調べた結果があります。
手洗いの方法 | 残存ウイルス数(残存率)* |
---|---|
手洗いなし | 約1,000,000個 |
流水で15秒手洗い | 約10,000個(約1%) |
ハンドソープで10秒または30秒もみ洗い後、流水で15秒すすぎ | 数百個(約0.01%) |
ハンドソープで60秒もみ洗い後、流水で15秒すすぎ | 数十個(約0.001%) |
ハンドソープで10秒もみ洗い後、流水で15秒すすぎを2回繰り返す | 約数個(約0.0001%) |
*:手洗いなしと比較した場合
出典
森功次他:感染症学雑誌、80:496-500,2006
http://journal.kansensho.or.jp/Disp?pdf=0800050496.pdf
10秒もみ洗い後、流水で15秒すすぎを2回繰り返すのが一番効果があることがわかります。通常は30秒かけて石けんを使って手首も含めて丁寧にこすり洗い、流水で洗い流すのがいいでしょう。
考証3 石けん成分の抗ウィルス性
ウィルスは表面にあるトゲトゲ(スパイク)、このスパイクがタンパクで出来ており、ここがヒトの細胞に結合することで感染します。
それを防ぐ効果が天然石けん成分にあります。
天然油脂が原料の石けんに多く含まれる成分=オレイン酸カリウムがウィルスのトゲトゲ(スパイク)に吸着することでヒトの細胞への結びつきを疎外する事でウイルスが失活化する事がシャボン玉石けん会社の研究で発表されています。
人型インフルエンザウィルスに対して3種類の界面活性剤の中で「オレイン酸カリウム」の効果が1番高かったと発表されています。
シャボン玉石けん、天然石けん成分「オレイン酸カリウム」の高い抗ウイルス効果を実証
https://release.nikkei.co.jp/attach_file/0498472_01.pdf
実際にオレイン酸カリウムは散布消毒液にも使われており、動物にひっかかれたり、咬まれた時の治療では石けんで洗う事が必須になっています。

前川修寛
この石けん水を試作していた時、うっかり指先を大きく切ってしまいましたが、検証と評価を兼ねて洗っていたら、早く治りました。ウィルスには核の外側に、脂質の膜=エンベロープを持つウィルスがあります。この脂質の膜がタンパク質で、純石けん成分の化学反応によって、分解を起こします。
インフルエンザウィルス系や武漢肺炎新型コロナウィルスも含めた、コロナウイルス系列のウィルスは膜(エンペローブ)がタンパク質でできているのを純石けん成分で破壊、不活化できます。
考証4 石けんが持つ特性を知る
わたし達の手の表面には皮脂があり、この「皮脂膜」は悪玉菌が増殖することを抑制するバリア機能の役割をしており、手に常在する善玉菌が作っています。
殺菌成分が含まれる石けん、合成洗剤や中性洗剤は使いすぎると手を保護する皮脂や善玉細菌までも取り去ってしまいます。この状態になるとウィルスや雑菌が繁殖しやすくなります。
ヒメダカを使った毒性試験では合成洗剤や中性洗剤はごく少量でも死ぬこと、成分によって表皮の細胞が破壊されていた事が報告されています。また、髪の毛も痛みが大きくなる事も確認されています。
これに対して石けんを使った毒性試験では24時間経ってもヒメダカは生息していた事から生物には害がない事が確認されています。

前川修寛
石けんを泡立てて白くするのは化学反応を起こしやすくするのと摩擦でおとしやすくするためです。これに対して、純石けん成分は高濃度であっても肌から侵入することがなく、成分に含まれるグリセリンに保湿効果があります。石けん成分は皮膚表面に生息する善玉細菌の好物と言われています。
ただ、石けんは摩擦や水分に弱いので「バリア効果」は過信しない方がいいでしょう。
合成洗剤と中性洗剤の界面活性剤は石けんとは別物
2003年頃のSARS騒動の際、国立感染症研究所から中性洗剤を二百倍に薄めたら消毒剤替わりに使えるとの話がありました。このSARSウィルスもコロナウィルス系列です。
ただ、合成洗剤や中性洗剤は濃度の調整が難しく、手荒れや湿疹、炎症などお肌のトラブルも多いので、そのまま手指消毒やマスク洗浄などに使うことはおすすめしません。
薄める量を厳守して、ドアノブなど金属物の消毒に絞って使うといいでしょう。
考証5 ハッカ油の抗細菌・抗ウィルス性
ハッカ油はカビを防いだり、O157を少量で完全に殺菌できるほどの殺菌力があります。
「日本防菌防黴学会」で、ハッカ油と同じようにメントール成分が多く含まれているミントの研究結果として、病原性大腸菌O157の殺菌にミントを1ミリリットルあたり400マイクログラム(マイクログラムは百万分の一)の濃度(0.04%)以上で、完全に殺菌できることが昭和薬科大とロッテ中央研究所から発表されていた事が1998年に報道されています。

前川修寛
ハッカ油を台所で使ったらゴキブリがいなくなりました。自分で確認するためマスクに1滴垂らしてみましたが、強烈な香りで涙が出てきました。虫除けになる理由がわかります。(笑)ハッカ油にはメントールが含まれており、このメントールを構成するモノテルペン炭化水素類は抗菌作用が強いことで知られています。
抗ウィルス性の詳しい根拠を探しましたが、見つかったのは以下の資料でした。モノテルペンに抗ウィルス性はあるけれど、どのようにして効くか詳細は不明です。
【参考】 「アロマセラピーによる医療」 今西二郎
京都府立医科大学大学院医学研究科
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu1962/43/2/43_2_109/_pdf
ハッカ油は熱には弱く、42~43℃のお湯で「昇華」する性質もあり、お湯で香りを飛ばす事も可能です。

前川修寛
抗ウィルス性と抗菌性を持つ、ハッカ油と純石けん成分を組み合わせて使うのは少なくとも利にかなっているのではないかと思います。
前川修寛
犬や猫、兎などペットを室内で放し飼いで飼っているような場合はハッカ油を使うのは避けた方がいいでしょう。公的機関・大学研究機関による検証試験(随時修正あり)
公的機関・大学研究機関による検証試験も行われはじめています。話がわかり次第、追加修正していきます。
追加分
令和2年4月24日「北里研究所不活化評価」を追加
経済産業省による検証試験予定
経済産業省が令和2年4月15日に「次亜塩素酸水」「第4級アンモニウム塩」「界面活性剤」など3品目について、文献調査で武漢肺炎新型コロナウィルスに対する消毒効果があることがわかったと発表しました。
これを確認するため、代替ウイルスを使った検証試験を製品評価技術基盤機構(NITE)と5月中旬に確認する予定とのことです。その後、実際のコロナウイルスを使って確認するとのことです。
「界面活性剤」で消毒効果があるという事は、純石けん成分でも消毒できる事になります。しかも石けんの方がお肌に優しく、安全です。
【参考】 独立行政法人製品評価技術基盤機構
NITEは新型コロナウイルスに対する消毒方法の有効性評価を行います
https://www.nite.go.jp/information/osirase20200415.html
https://www.nite.go.jp/data/000108029.pdf

前川修寛
実際のウィルスを使った検証試験は国内でもできる場所は限られており、委託費用も高額なのでこれは助かります。北里研究所不活化評価令和2年4月24日追加
令和2年4月17日、北里大学大村智記念研究所 ウイルス感染制御学研究室Ⅰ 片山和彦教授らの研究グループが市場に流通している市販製品を対象に、新型コロナウイルス不活化効果を有する可能性について、試験管内でのウイルス不活化評価を実施した結果が報告されました。
プレスリリース
医薬部外品および雑貨の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)不活化効果について
https://www.kitasato.ac.jp/jp/news/20200417-03.html
プレスリリースPDF
プレスリリースPDFを読むと、市販されているハンドソープの三倍希釈または原液を手指の洗浄、拭き取り洗浄を想定して使うと1分で不活化することが報告されています。
また、エタノールの濃度についても試験結果が公開されており、50%以上の濃度であれば、接触時間 1 分間で十分なウイルス不活性化が可能とのことです。
アルコール50%の濃度は市販されている台所用除菌アルコールに多い濃度で、フマキラー社から出ている台所用除菌アルコールで形の近いコロナウィルスでも不活化することが発表されているので、武漢肺炎新型コロナウィルスでも同じではないかと思います。

前川修寛
市販のハンドソープでも効果があることがわかったのは大きな進歩です。ハンドソープにも純石けん成分が使われていますから、武漢肺炎新型コロナウィルスにも効果がある可能性は大です。
万能の消毒方法はありません
どの消毒方法も一長一短で、全てのウィルスや細菌を消毒できるわけではありません。すぐ役に立ちそうなものはすぐ取り入れて使っていく事です。
基本は石けんを泡立てて手を30秒以上かけて丁寧に洗い、流水で流すことを基本にして、水が使えない所ではできる方法で臨機応変に使っていくとよいでしょう。

前川修寛
神社の手水舎は古代から続いてきた、うがいと手を流水で流す習慣をつけるための先人の知恵です。万能の消毒方法はない
手洗いは石けんと流水で30秒以上洗う事が大切
新型ウィルス=まだわかっていません
これまでの常識が通用しない
慢心は禁物
武漢肺炎新型コロナウィルスのように新しく出たウィルスは過去の類似のウイルスの経験ですべてを語る事はできません。これまでの常識が通用しなくなっている面があります。
世界中が大惨事の中、日本国内では医療従事者、関係者の皆さんが医療崩壊を回避しようと連夜頑張ってくれています。
国内の感染者数の増加を減らして、医療崩壊を回避して、死者数を少なくして、薬やワクチンなどの対抗手段ができるまでの時間稼ぎが必要です。
そのためにも格好悪くても感染しない事が最優先です。

前川修寛
大切なのはわたしたちが慢心したり、過度に不安になったりせず、冷静に目の前のできることを続けていく事です。最後に
わたしたちがこの事態から学べる事も多くあります。傍観するのではなく、主体性をもってできる事をしましょう。一部には腹が立つ行動をする人達もいますが、今は生命を守るため、感染しない事を最優先にしましょう。
令和の国難に現在のわたしたち国民がどう学び、対処していったかを後世の人達が見ています。どうせなら「見事に乗り切った素晴らしい日本人」と言われるようにした方がいいと思います。あなたはいかがでしょうか。
