あなたは自分の聞こえを知ってる?

あなたは他人に自分がどう聞こえるか説明できますか?

自分の聞こえを客観的に他人に説明できるようになると話しやすくなります。

大ヒットした映画「FAKE」では聴覚障害・難聴を巡る話で、わたしも専門家として、出演しています。

映画の中でわたしが難聴や聴覚障害で補聴器をつけたらどう聞こえるか、わたしの場合の聞こえの傾向について説明するシーンがあります。

実際にご覧になった方はお気づきと思いますが、私の話で難聴や聴覚障害についてわかった、という人が多かったそうです。

耳鼻科でも説明できない人が大半で、聞こえる人はその感覚を想像するしかないのです。

耳が聞こえない人、補聴器をつけている人がどう聞こえるかを聞こえる人にわかるように説明したのはメディアでは私が初めてだそうです。

実際、自分がどう聞こえるか、「聞こえの傾向」を把握していくこと、それを他人に説明できるようにすることはきわめて重要なことだと思います。

確かに「聴力」については聴力レベル(聴力損失)の程度を表し、聴力測定器で計ることができますが、ここで使われるデシベル(dB)単位という一般に馴染みのない概念です。

わかってもらおうとするなら、それなりにわかる言葉で伝える必要があります。

実際に見かける説明の多くが次のようになっています。

「わたしは聴力100デシベル(dB)で、補聴器を使っています。」

という人がほとんどです。これでもまだいい方です。

手話講座や要約筆記奉仕者養成講座の体験談発表ではこうした説明が多くあります。馴染みのない専門用語を延々と並べる人も多く、「何かずれているなあ」と感じました。

わたしが参加していた要約筆記奉仕者養成講座では年輩の難聴者が延々と話されていて、皆さん黙って聞いておられたそうですが、ある方が私に話ししてくれました。

「あの人の話は何を言っているのか意味がさっぱりわからん!」

この人は難聴者に話を筆記で伝えるための要約筆記をはじめて、10年以上になるベテランの方です。私の話を聞くまで、何を意味するのかわからなかったそうですが、言うのは悪いだろうと黙っていたとのことです。

難聴者団体のWEBサイトを調べても、理解するためのきっかけも情報提供も話も全くありません。

あってもわかりにくいものばかりです。

一般の方に難聴について理解を求める以前に難聴者自身が難聴について理解できていないのが現状です。これでは理解を求める以前の問題になります。

余談ですが、冒頭で私が映画「FAKE」に出て説明したことは私が実際の生活で経験し、調べ、検証してわかるようにしていったからこそ、映画を見てわかった人が多く出たことも一因です。

オーディオロジストの開祖、故畠口健先生

 私が京都府立聾学校幼稚部に在籍していた頃、聴能教育相談として、西日本におけるオーディオロジストの開祖といわれる、故畠口健先生が補聴器の選択と調整をしてくれていました。なお、オーディオロジストと聴覚言語士は混同されますが、必要とする知識も技能も全く違います。

 2001年に亡くなられるまで同じ市内に住んでいたこともあり、こうして畠口先生について書いているのも、きっとご縁があるのだと思います。

 故畠口健先生が考案したヒヤリングレベルシートでは難聴の状態についてわかりやすく5段階にわけられ、現在も補聴器の説明などで使われています。

 2004年にアナログ調整の補聴器から、音域毎の調整が可能なデジタル補聴器に切り替えたとき、それまでの音の基準がガラリと変わり、混乱しました。
 その時の私は畠口健先生が考案したヒヤリングレベルシートの話を読んでいたので、ヒヤリングレベルを手がかりに補聴器の音質調整の際に参考にしました。

ヒヤリングレベルシートとは?

 聞こえの傾向を説明する概要として、畠口健先生が提唱した、聞こえと音量の目安があり、おおむね以下の通りに説明されています。
 出典は失念してしまいましたが、畠口健先生が京都府立ろう学校に在籍中の1980年代に考案されたものだと思います。

音量該当する音
120dBジェット機の騒音
110dB自動車の警笛
100dB電車が通るときのガード下
90dB大声による独唱、騒々しい工場の中
80dB地下鉄の車内、電車の中
70dB電話のベル・騒々しい街頭、騒々しい事務所の中
60dB静かな乗用車、普通の会話
50dB静かな事務所
40dB図書館や静かな住宅地の昼間、コオロギの鳴き声
30dB郊外の深夜、ささやき声
20dB木の葉のふれ合う音、置時計の秒針の音
10dB蝶の羽ばたき

 これなら一般の方にも想像しやすいのが特徴です。
 これと組み合わせて、聞こえの程度を把握するための、ヒヤリングレベルシートがあります。

  • ささやき声までよく聞こえる=正常耳 (10~30dB)
  • 小声では聞こえにくい=軽度難聴   (30~50dB)
  • 普通の会話が聞こえにくい=中等度難聴 (50~70dB)
  • 大声の会話でも聞こえにくい=高度難聴 (70~100dB)
  • 耳元の叫び声やジェット機の音はわずかに感じるが、日常的な音は聞こえない=重度難聴 (100dB以上)

 ただ、音域毎の調整ができるデジタル補聴器も人工内耳もまだなかった頃に考案されたものなので、シンプルな反面、これだけで個人の聞こえの傾向については把握のしようがありません。

 私がデジタル補聴器を設定する時に補聴器販売店の社長が「聞こえの傾向をどう把握したらいいのか、わからないんですよ」と聞いたので、この話を参考にして、オリジナルの聞こえの傾向のチェック表を自分で作成してみました。

 私はこのチェック表で、自分の聞こえの傾向を記録して、補聴器販売店に持ち込んで、社長と「どう聞こえるかを把握」かを相談しながら、補聴器の聞こえ方を調整していきました。

 次のようになります。

聞こえの傾向チェック表

  • わたしはどんな音が聞きやすいか、聞きづらい音は?
     例 風の音は?
       トイレの水が流れる音は?
       水道の水が流れる音は?
       水がポタリポタリ落ちる音は?
       エアコンの音は?
       洗濯機の音は?
       鳥の鳴き声は?
       車の音は?
       電車の音は?
       発車ベルの音は?
       ブザーの音は?
  • わたしはどんな声が聞きやすいか、聞きづらい音は?
     例 男性の声は?
       女性の声は?
       年代による違いは?
       映画では誰の声が一番わかるだろうか?
       相手とどのくらいの距離ならわかるだろうか?
  • (電話が可能な場合)
     例 わたしはどんな状態なら電話がしやすいか?
       有線受話器は?
       無線受話器は?
       携帯電話は?
       トランシーバーは?
  • わたしはどんな状況で音がききやすいか、聞きづらい場所は?
     例 静かな場所は?
       電車の中は?駅では?
       人が多い所、雑踏では?
       映画館では?
  • 補聴器を使った場合とそうでない場合の音の違い
     例 わたしは騒がしいところではどう聞こえるだろうか?
       わたしはコンサートホールではどう聞こえるだろうか?
  • CDの音楽ソースチェック
     例 「ツアラトゥストラはかく語りき」の冒頭の地響きのようなパイプオルガンの音は?
       多重混声合唱「アトモスフィア」は聞こえるだろうか?
       ピアノの音はどう聞こえるだろうか?
       バイオリンの音はどう聞こえるだろうか?

聞こえのチェックで自分の聞こえ方に気付きます

このように相手と共通して認識できる音の聞こえ方をチェックしていく形で、自分の聞こえを客観的にチェックしていくことで、初めて気付くことが多くあります。

ただ、間違いも多いので、わかる人にチェックしてもらうことも一つの方法です。
手前味噌ですが、私もチェックを受け付けています。

100%ではないけれど、補聴器販売店と相談しながら、補聴器の音を調整することで、物音の聞こえ方や補聴器毎に音を比べることで、聞こえの傾向が異なること、対人コミュニケーションの対処方法もわかるようになりました。

このように自分がどう聞こえるかを客観的に把握していくことは、自分の傾向を知る事につながるだけでなく、他人に説明しやすくなります。