「よく聞こえない世界」とは?~難聴を体験する
人間は音のない状態にどこまで耐えられるか?
私たち人間は音が聞こえない状態でどこまで耐えられるでしょうか?
人間は完全な無音状態に置かれると、多くの人が45分以上は精神的に耐えられないという発表があります。
アメリカのミネソタ州南部のオーフィールド研究所に設置されたその無響室は、外部の音を99.99%遮断し、人々を確実に狂気の世界へと導いてしまうそうです。
暗い無響室でじっと座っていると、自分の身体から出る音に精神が耐えられなくなって、幻聴を生み出しはじめるのだそうです。
「耳鳴り」もするそうです。
個人の状態にもよりますが、聞こえる人が1人で入ると、孤独感がかなり強くなると言われます。
極めて強いストレスを感じるのですね。
この状態に長時間、耐えられる人は少ないと言われ、宇宙飛行士の選抜条件でも必須とされています。
生まれつき耳が聞こえない人は別として、音が全く聞こえない人は精神的に辛いと感じる人の方が多いのです。これは様々な要素がありますが1つは音から遮断される時の不安から来るストレスもあります。
わたしの場合は補聴器を外すと音が全く聞こえませんが、以前は補聴器を外すと、確かに「幻聴」が聞こえました。
その経験から書いてみます。
「聞こえる」というより、私が経験した出来事の感情が脳内で「再生」されるといった方がいいでしょう。
「自分で出したものが返ってきた?」で詳しく書きますが、この「再生」される音に、重要なヒントがありました。
難聴を体験する方法?
一番いいのは無響室に1人で入ることです。
ただ、一般の方は機会がないので、難しいと思いますが・・・。
「耳鳴りをずっとさせている状態」に近いものならあります。
両耳で高音域が大きい70デシベル程度の音量で、放送が終わった後のテレビのザーっというノイズ音を録音して鳴らします。24時間ずっと鳴らしている状態で3か月生活してみます。
その耳鳴りがする状態にどのくらい耐えられるか。
この状態で人の声を聴こうとすると、わかる場合とそうでない場合にわかれるのがほとんどです。日常生活で人の話がよく聴きとれないと、どんなに苦労するものか気づきます。
また、「よく聞こえない世界」を簡単に体験する方法があります。
あなたが好きなテレビ番組または映画の音を消して、登場人物が何を言っているのかを当ててみましょう。
聞こえる他の音は入ってくるでしょうが、テレビ番組または映画を見ている時の心の動きをじっくり観察してみましょう。
あなたは何分くらい見ていられるでしょうか?
あなたは最後まで見ていることができるでしょうか?
ほとんどの人は1時間も耐えられないと思います。
私が試してもらったほとんどの人は数分で見ていられなくなりました。「イライラしてきて、最後まで見ることができなかった」といいました。
音楽もなければ、声がわからない状態で、何が起こっているのかを把握することが非常に難しいという事、イライラする事がよくわかります。
これまでは「聴覚より視覚の方が重要」と言われてきましたが、実は聴覚の方が重要で、精神と関連しており、脳や潜在意識とも関連して働いているらしいことがわかってきています。
難聴を体験するソフトウェア
感音性難聴に近い、「音がぼやける」状態を経験することを書いてみましょう。
難聴を擬似的に体験するソフトウェアを紹介しましょう。
ロンドン大学のホームページに
https://www.phon.ucl.ac.uk/resource/hearloss/
「HearLoss - Hearing Loss Demonstrator」というMark Huckvale,氏作成の難聴を体験する優れたソフトウェアがアップされています。
音の強さ・周波数・スペクトル情報を変化させて様々な要因による「難聴を体験」するソフトです。
フリーで使えます。WindowsXP、7、8、10で動作する事を確認しました。
Mac版、スマートフォン版はいまのところありません。
完璧ではありませんが、難聴になると、音声情報がどれだけ失われるか、視覚的にもよくわかります。
私が訳した簡単な使い方を書きます。
誤訳があったらごめんなさい。
本文中の
ftp://ftp.phon.ucl.ac.uk/pub/sfs/hearloss/hearloss100.exe
と書いてあるところをクリックして、ダウンロードします。
hearloss100.exe をクリックしてパソコンにインストールします。
インストール後、hearlossを実行します。
できるだけヘッドホンで聴いてみてください。
再生される音をSpeech/Music/Noiseのボタンから聞く音を選びます。
同時に3つ選ぶ事もできますが、最初は1つだけでいいでしょう。
次に、何を聴こえにくくするかを選びます。(3種類)
①Amplitude Sensitivity(振幅に対する感度)
②Frequency Range(周波数帯)
③Spectral Detail(スペクトル情報)
専門用語ですが、意味はさておいてそれぞれ「損失度」を右の[No Loss]から[Servere Loss]へ動かせます。
[Servere Loss]---[Moderate Loss]---[Mid Loss]----[No Loss]
←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←
[完全に損失]----------------------------------[損失なし]
なお、それぞれのLossが該当する聴力は以下の通りです。
デシベルの考え方
[No Loss] 0dB
[Mid Loss] -25dB
[Moderate Loss] -50dB
[Servere Loss] -75dB
[Servere Loss]は実質、補聴器なしでは何も聞こえない状態といってもいいでしょう。ただし、きこえる人なら話している内容もわかるレベルです。聞こえない人が話す聞こえの説明と自分の認識がずれやすいので注意してください。
このソフトウェアでは100dB以上の重度難聴を再現できるわけではないので、限界はあります。同時に100dB以上の世界はまだ地球上においては再現できたという話はありません。
最初は②Frequency Range(周波数帯)を動かしてみてください。
損失度をどのくらいにするか、[No Loss]から[Servere Loss]までレベルを調整して行くと、音だけでなく、視覚的によくわかります。
自分の聞こえの傾向がわかる方でしたら聞こえる周波数帯が減っていくと視覚的にも欠落した状態がどんな感じになるか、わかると思います。
①Amplitude Sensitivity(振幅に対する感度)
再生される音でSpeechを選択して、[Amplitude Sensitivity(振幅に対する感度)]を[Servere Loss]の方へゆっくりと下げていくと、明瞭感が落ちていくのがわかります。
私は補聴器を使っても常に「ぼやけている音」を聞いているので、「音がぼやける」状態を説明する事が難しいのですが、このソフトウェアを使えば、聞こえる方なら違いがはっきりわかるかもしれません。
感音性難聴で「言葉が不明瞭になる」という話はこの状態に近いものがあります。
同時に聞こえる人はこれでもまだわかる方も多く居るので「このくらいなのか」と思ってしまいます。それだけ音声に対する脳の補正機能がすごいのです。
視覚的に書くとこんな感じです。
いろいろと試してみることをおすすめします。
最後に「HearLoss - Hearing Loss Demonstrator」を作成してくれたロンドン大学のMark Huckvale氏に感謝します。
ありがとう!
※上記内容を行政主催の手話教室も含めた有料講座で使う場合は事前に相談してください。